この記事では、実名報道される基準について、専門家の視点から解説しています。
主に刑事事件の被疑者や被害者について、「実名報道」するかどうかの基準は報道機関ごとに異なります。
同じような事件であっても、実名が出る場合もあれば匿名で報じられるケースもあります。
この記事では、実名報道になりやすいケースとそうでないケースについて、わかりやすく解説しています。
実名報道されてしまった場合の対処法についても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事では、清水陽平弁護士の著書「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第4版〕」を法的根拠に基づく参考資料としています。
実名報道の判断基準
実名報道されるかどうかの基準は、報道機関ごとに異なります。
ただし一部の事情が複雑な事件を除くと、実名報道するかどうかの判断は各社同じ場合がほとんどです。
実名報道されるまでの流れ
実名報道されるまでの流れについて解説します。
基本的に刑事事件についての報道は以下の流れで進んでいきます。
- 事件の発生、被疑者の逮捕
- 当局(警察、検察)が報道発表
- 当局の発表に基づき、報道機関が報道
たとえば、とある刑事事件の被疑者が逮捕された場合を想定しましょう。
まず最初に、当局(警察、検察)が逮捕事実を公表するかどうかの判断を行います。
事件の重大性や社会性を総合的に判断して、当局の担当部署(広報課など)が公表するかどうか判断します。
ただし、共犯者が逃亡している場合や余罪が見込まれる場合、万引きなどの軽犯罪など、逮捕時点で公表することによるデメリットが多い(または公表するメリットがない)と判断された場合は、逮捕事実自体が公表されないことも少なくありません。また被疑者の実名公表により被害者が特定されてしまう可能性がある場合や、被疑者に精神疾患が疑われるような場合も、実名公表が見送られる場合があります。
上記を踏まえ、逮捕事実を当局(警察、検察)が公表することで初めて報道機関は事実を知ることとなります。
そのうえで、報道各社の指針に従い、実名報道される、というのが一般的な流れです。
被疑者の実名報道の基準
刑事事件の被疑者については、成人で逮捕されていれば実名報道が原則です。
逮捕には至らず書類送検であっても、事件の重大性によっては実名報道されるケースもあります。
一方で共犯者が逃亡している事件や被疑者の実名公表が被害者の特定につながるような場合など、実名報道が捜査に悪影響を及ぼすと判断されるケースでは、匿名報道となったり、報道発表自体がされなかったりすることがあります。
被害者の実名報道の基準
一方で、刑事事件の被害者が実名報道されるケースもあります。
これは原則として、被害者が亡くなっている場合についてのみ、実名報道されるという決まりがあります。
犯罪によって人の命が奪われるという事実は限りなく重く、見過ごすことのできない不正義です。事件の詳細が社会で共有され、一人ひとりが犠牲者を悼むとともに、二度と起こることがないように対策などを論じていくことが健全な社会のあり方だと考えています。(中略)社会で共有すべき情報を皆さんに伝え、記録することが、私たち報道機関の責務です。中でも、誰が被害に遭ったのかという事実は、その核心です。被害に遭った人がわからない匿名社会では、被害者側から事件の教訓を得たり、後世の人が検証したりすることもできなくなります。
出典:日本新聞協会「実名報道に関する考え方」
2019年の京都アニメーション放火殺人事件では、被害者遺族の反対などを理由に、被害者の実名が公表されなかったことが話題になりました。
最近ではSNSなどでデマの拡散や誹謗中傷が散見されるようにもなり、被害者の実名報道の在り方は様々な場面で議論されています。
特定少年の実名報道の基準
2021年に少年法が改正され、18・19歳で重大な罪を犯した場合には「特定少年」として実名報道できるようになりました。
実際、2024年の北海道旭川市の女子高校生殺人事件など、20歳未満であっても実名報道されるケースが出てきています。
特定少年による実名公表は重大事件に限るとされ、実名か匿名かの判断基準も報道各社に委ねられています。
実名報道されやすいケース
実名報道されるかどうかの基準は報道機関ごとに定められていますが、一般的に実名報道になり得るケースは共通しています。
実名報道されやすいケースは以下のとおりです。
- 重大事件
- 著名人
- 有名企業在籍
- 公務員
- 有名大学在籍
重大事件
実名報道されるかどうかの重要な判断基準になるのが、事件の重大性です。
重大事件であればあるほど、社会的な関心が高く、被疑者を実名で報じる必要性が生じると考えられます。
逆に万引きなど軽微な犯罪であれば、実名報道する価値が低いと判断されやすい傾向にあります。
著名人
著名人が事件の当事者の場合は、実名報道される可能性が高まります。
芸能人やスポーツ選手などの逮捕は話題性も高く、ほぼ確実に実名報道されるでしょう。
有名企業在籍
一部上場企業など、社会的に知名度のある会社に勤めている被疑者の場合は実名報道されやすいと言えます。
その場合は勤め先の会社名、所属部署なども含めて報道されてしまうことも少なくありません。
公務員
官公庁や役所職員、警察官、消防士、公立学校教諭などの公務員も実名報道されやすい立場です。
仮に逮捕されなかったとしても、所属先を懲戒免職となった場合はHPなどの懲戒処分情報に掲載されてしまう可能性があります。
有名大学在籍
20歳を超えていれば原則誰でも実名報道される可能性があり、学生でも例外ではありません。
特に有名大学の学生や強豪部活動の選手などは社会的な関心が高いとされ、実名報道されるケースも多いです。
実名報道されるタイミング
実名報道されるタイミングはある程度決まっています。
基本的には以下の4つのタイミングが考えられます。
- 逮捕時
- 起訴時
- 公判・判決時
- 懲戒免職時
逮捕時
一番オーソドックスなのが、刑事事件で被疑者が逮捕されたタイミングです。
逮捕行為は国家権力を駆使して身柄を拘束する重大な行為である以上、監視の意味も込めて原則として実名報道されることになります。
起訴時
実名報道される次のタイミングとして考えられるのが、検察による起訴時です。
起訴された段階で犯罪行為の「容疑」が「起訴事実」に切り替わるため、被疑者に対する呼称も「容疑者」から「被告」に切り替わります。
公判・判決時
検察に起訴された場合、次は裁判が始まるタイミングで実名報道される可能性があります。
公判での報道は、主に初公判、論告・求刑、判決のタイミングで行われることが多く、注目事件では証拠調べなどの審理の模様も報じられることがあります。
懲戒免職時
刑事事件とは異なりますが、公務員が懲戒免職されるタイミングでも実名報道されることがあります。
官公庁や市区町村などは定期的に職員の懲戒処分情報を公開していて、最も重い懲戒免職の場合は実名発表することが多いです。
役所などのリリースに基づき、報道機関が実名報道するという流れになります。
実際に実名報道された影響
実名報道されると様々な影響を及ぼします。
実名報道されて最も大きな影響を感じたのが、就職活動です。
あらかじめ応募者の実名をネット検索する企業も多く、面接の前段階で既に逮捕歴が知られていたこともありました。
また再就職後も、何の気なしに筆者の実名を検索した同僚が逮捕歴を知り、一時期社内で騒ぎになった、という経験もあります。
実名報道されてしまった場合の対処法
ここからは、実名報道されてしまった場合の対処法について紹介します。
参考:ネットニュース記事を削除したい!削除依頼方法と値段の相場
実名報道された場合の対処法として考えられるのは、以下の二つの方法があります。
- 弁護士事務所に依頼する
- 逆SEO業者に依頼する
①弁護士事務所に依頼する
実名報道された記事を削除したい場合、最も信頼できるのが記事削除を専門としている弁護士事務所に依頼する方法です。
法的根拠に基づいた申請により、適切に削除手続きを進めてもらえます。
削除申請に応じないサイトに対しても、対通信プロバイダーへの発信者情報開示請求や、侵害記事の仮削除申立等の手続きなどの対応を取ることができます。
②逆SEO業者に依頼する
高額な弁護士費用を用意するのが難しい場合は、「逆SEO対策」ができる業者に依頼するのもおすすめです。
逆SEO対策は、コンテンツの削除を目指すのではなく、検索結果に表示されないようにしようというもの。
弁護士費用と比較すると安く、コンテンツの数が多い場合には特に有効です。
ネット記事の対策は、適切なタイミングや手法が個別ケースによって異なります。状況をお伺いした上で最適な方法をご案内しているので、ネット記事でお困りの方はぜひ一度無料相談にお越しください。
実名報道の基準に関するよくある質問
実名報道の基準に関するよくある質問をまとめました。
逮捕されたら必ず実名報道される?
いいえ、そんなことはありません。
刑事事件で逮捕されたとしても、実名報道されるかどうかはケースバイケースです。
報道各社の指針に基づき、実名か匿名かの判断がされます。
書類送検の場合は実名報道されない?
一般的には書類送検では実名報道されないことが多いです。
しかし、事件の重大性や社会的関心によっては書類送検であっても実名報道されることがあります。
逮捕と書類送検は身柄を拘束するか否かの違いであって、刑事事件の手続きとしては変わりありません。
起訴されたタイミングで実名報道に切り替わる可能性もあります。
特定少年で実名報道される基準は?
2021年の少年法改正により、18・19歳であっても重大事件で起訴された場合は「特定少年」として実名報道されるケースが出てきました。
特定少年として実名報道するかどうかの基準は報道各社の指針に委ねられています。
実名報道されたら人生終了?社会復帰できない?
実名報道の影響は大きいですが、人生終了するわけではありません。実名報道されていても社会復帰することは十分に可能です。
実際に実名報道された人間の社会復帰についてまとめた実名報道で人生終了の記事も参考にしてみてください。
まとめ:実名報道されても諦めずに対策しよう!
実名報道されるかどうかの基準は報道機関によって異なり、発表の大元である当局(警察、検察、役所など)の判断によっても大きく変わります。
同じような事件であっても、状況によって実名報道されることもあればされないこともあり、やや不平等である点は否めません。
特に近年ではネット記事による「デジタルタトゥー」が残り続けることで、社会復帰が難しくなるという懸念もあります。
一度実名報道されてしまうと多方面に影響を与えるため、可能な範囲で対策を検討することをおすすめします。
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